会長挨拶

会長:新井 一

この度、一般社団法人日本脳神経外科学会第73回学術総会を開催させていただきますことを、教室員一同、大変光栄に存じております。

本学会は昭和23年に日本脳・神経外科研究会として発足し、その後学会の発展とともに本邦における脳神経外科学の進歩に多大なる貢献をしてまいりました。そして現在、日本脳神経外科学会の会員数は9,000余名、専門医数は7,000名を超えるに至っていますが、この数をもって本邦の脳神経外科医は過剰であるといった意見が、一部のマスメデイア等で論じられることがあります。しかしながら我国の脳神経外科は基本的な診療科の一つとして定義され、その診療活動の範囲は広く、脳神経疾患の診断から外科的・非外科的治療、周術期管理、さらには長期的予後管理まで、一人の患者の診療を一貫して担当しており、比較の対象となる欧米とはそもそもシステムが異なっているのが事実です。脳卒中を始めとする救急医療の最前線を担い、同時に難易度の高い外科手術を行っている私達に、脳神経外科医が過剰であるといった認識は全くありません。

改めて申すまでもなく、日本の社会全体にglobalizationの大きな波が 押し寄せようとしています。そして、医学界もその例外ではありません。臨床や研究の分野ばかりでなく、医学教育についても国際基準が適応され、今後10年程で我国の医学教育は大きく変わることになります。しかしここで明らかにしておくべきは、真のglobalizationとは、決して海外を単に模倣し追従するのではないということであります。先達が築いてきた伝統を継承しつつも、盲目的なnationalismに陥ることなく、海外から学ぶべきところは学んだ上で、我国独自のスタイルを構築しこれを世界に発信していくことが求められているのだと思います。このようなことから、今回の学術集会のテーマを「知の継承と創造 そして社会への発信」といたしました。先人の「知」を継承し、そこから新しい「知」を創造、これを社会さらには世界に向けて発信しようとする気概を示したつもりでおります。会期中の3日間、特別企画として「知の継承と創造」と題するセッションを設け、血管障害、脳腫瘍、その他の分野において、先人の知がどのように継承されそこから新たな知がどのように創造されてきたのか、各分野のエキスパートの先生に講演していただくことになっています。

文化講演には作家の塩野七生氏をお招きして、「リーダーの魅力」というテーマでお話しいただきます。壮大な歴史ドラマを事実に基づき忠実に解析しつつも、常に人の営みに注目することによって、歴史は人によって創られることをその多くの著書のなかで示された塩野氏からは、大変示唆に富むお話しを拝聴できるものと期待しています。

本学会には多数海外からのゲストをお招きしていますが、それらを代表して、米国のJohn Tew先生、カナダのJames Rutka先生、台湾のYong-Kwang Tu先生に招待講演をお願いしています。Rutka先生は昨年からJournal of Neurosurgeryの編集委員長に就任されており、またTu先生はWFNS(World Federation of Neurosurgical Societies)presidentの役職をお務めです。3名の先生にはそれぞれの立場から、本学会会員へのメッセージを発信していただくことになっています。

その他に学術委員会企画として「再生医療と細胞医療」と題するシンポジウムが開催されますが、専門医制度、医師主導臨床研究、妊娠分娩と脳神経外科、脳神経外科医療の可視化、診療所に勤務する脳神経外科専門医のキャリアパス等々、様々なテーマで特別企画が予定されています。また、脳神経外科のsubspecialtyごとに複数のシンポジウムが企画され、各種セミナー、ハンズオンは生涯教育を念頭に基礎から最先端までを網羅する内容で構成いたしました。さらに、会期2 〜3日目にISPN(International Society for Pediatric Neurosurgery)Educational Courseを開催いたします。本コースの講師にはエキスパートを国内外から招聘しており、小児脳神経外科の基本からcutting edgeまでを包含する内容となっています。アジア各国から若手脳神経外科医が聴講予定ですが、我国からも多くの参加を期待しています。

演題募集に際しては2,202の応募をいただき、招待講演を含め計2,300を超える演題によりプログラムを構成することができました。協力いただいた皆様に厚く御礼申し上げると同時に、なるべく多くの方に発表いただくことを意図したために、スケジュールが若干過密になってしまったことをこの場を借りてお詫び申し上げます。

本学術総会が会員一人一人にとって実り多きものとなりますよう、多数の皆様のご参会を心よりお待ち申し上げております。

一般社団法人日本脳神経外科学会
第73回学術総会 会長 新井 一
(順天堂大学医学部脳神経外科 教授)

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